名古屋高等裁判所 昭和39年(ネ)666号 判決 1965年11月30日
控訴人 南朝雄
被控訴人 長谷川虎一 外四名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人らは連帯して控訴人に対し金六〇万円およびこれに対する昭和二九年一一月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および書証の認否は、左記の外、いずれも、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
(一) 被控訴代理人は、平井金作は昭和三九年五月二四日死亡し、被控訴人平井富子、同小木曾満智子が同人を相続した、と述べ、
(二) 控訴代理人は、
(1) 被控訴人長谷川は、原判決認定の三万円掛の講に二口加入し、その内の一口は第二回目ないし第三回目に落札し、他の一口は第一五回目に落札し、いずれも各掛戻債務を負担するに至つたが、右二口の掛戻債務額が金六〇万円となつたので、これを準消費貸借に改めた(甲第一号証の一)ものである。原判決が認定した金二二万二〇〇〇円の債務(甲第一〇号証の一)は被控訴人長谷川が、別に負担していた一万円掛の講の掛戻債務に関するものであつて、本件債務とは別個の債務で、この債務については、すでに裁判上の和解が成立している。
(2) また原判決は、被控訴人らの主張の土地を目的とした代物弁済は、租税滞納処分による差押の登記がなされた昭和二九年八月三〇日以前になされたものと認定しているけれども、右代物弁済による右土地の所有権移転登記は昭和二九年九月一八日売買を原因として同年九月二〇日になされているから、不動産の代物弁済の要物性の点から考えて、代物弁済の成立したのは右登記の完了の時と解されるが、してみると原判決のこの点に関する認定の誤りであることは明らかである。
と述べた。
<立証省略>
理由
当裁判所の判断によるも、控訴人の請求は失当であつて、棄却すべきものと考える。その理由は、左記の外、原判決の説示するとおりであるから、その理由記載を引用する。
(一) 控訴代理人の当審における前記(1) の主張については、甲第一号証の一の準消費貸借が原判示三万円講二口のうちの古い方の一口の掛戻債務に関するものであり、甲第一〇号証の一の金二二万二〇〇〇円の債務は同じく右三万円講の新しい方の一口の掛戻債務に関するものであることは原判決も説示しているところであるから、控訴代理人の右主張は採用できない。
(二) つぎに控訴代理人の当審における前記(2) の代物弁済の成立時期に関する主張について考察する。
おもうに不動産の所有権譲渡をもつて代物弁済をなす場合、代物弁済が有効に成立するためには、原則としては単に所有権移転の意思表示だけでは足りず、登記手続など第三者に対する対抗要件をも具備せしめることを要するものというべきであるが、所有権移転の意思表示をなすと共に権利証その他登記申請に必要な委任状など一切の書類を交付したような場合には代物弁済はこの時において有効に成立するものと解すべきである。
本件について考えてみると、被控訴人長谷川は昭和二九年八月中頃原判示(ハ)の二口の講の掛戻債務計約四〇万円の支払に代えてその所有にかかる原判示土地の所有権を譲渡し権利証その他所有権移転登記に必要な一切の関係書類を交付したことは原判示のとおりであるから本件代物弁済は右昭和二九年八月中頃有効に成立したものであること多言を要しない。控訴代理人の右主張は採用しがたい。
(三) 当審における控訴人南朝雄本人尋問の結果中、原認定に反する部分は措信できない。
以上の次第であるから、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、控訴費用につき、民事訴訟法第九五条、第八九条に則り、主文のとおり判決する。
(裁判官 成田薫 神谷敏夫 辻下文雄)